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終活・相続

認知症の親の家は売却できる?|成年後見と家族信託の基本

2026年10月12日

「親が施設に入ることになった。空いた実家を売って、その費用に充てたい」
「物忘れが増えてきた父の家を、今のうちにどうにかできないだろうか」

認知症が進んだ親御さんの家の売却について、ご相談をいただきます。切実な事情があるのに、手が打てない。そういう場面に何度も立ち会ってきました。

先に、いちばん大事なことを申し上げます。認知症と診断されるなどして判断能力が失われた後では、親御さんの家を、ご家族の判断だけで売ることはできません。 不動産の売買契約には、所有者ご本人の意思が必要だからです。

ただし、道がないわけではありません。この記事では、なぜ売れないのかという理由から、成年後見制度と家族信託という2つの仕組み、そして今どの段階にいるかによって何ができるかを整理します。

なお、この記事は制度の説明と「誰に相談すればよいか」までをお伝えするものです。手続きそのものは司法書士・弁護士の領域ですので、当社が代理することはできません。そこは正直に申し上げます。

細井誠

✍️ この記事を書いた人

FPマイスターホーム代表 細井 誠(宅地建物取引士・AFP)

相模原に暮らして40年以上、町田で不動産の仕事をして20年以上。これまで1,000件以上のご相談をお受けしてきました。「買える家」ではなく、「無理なく、幸せに暮らせる家」をご提案します。趣味はトライアスロン。お客様が納得されるまで、最後までお付き合いします。プロフィール

目次

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この記事でわかること

結論:認知症と診断された親の家は、原則としてそのままでは売却できない

まず、全体を整理します。

親御さんの状態と、できること

今の状態 家を売れるか 使える備え
元気で判断能力がある 売れる(本人が契約する) 家族信託・任意後見・生前の話し合い
判断能力に不安が出てきた 契約の意味を理解して意思を示せるかで分かれる 早めに専門家へ相談
判断能力が失われている そのままでは売れない 法定後見(成年後見・保佐・補助)

分かれ目は「診断」ではなく「意思を示せるか」

よく誤解されるのですが、認知症の診断を受けた瞬間に何もできなくなるわけではありません。見られるのは、契約の意味を理解して、自分の意思を示せるかです。

とはいえ、進行してからでは選択肢が狭まります。だからこそ、元気なうちの備えに価値があります。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

早い段階ほど、選べる道が多い仕組みになっています。親御さんがお元気なうちに、家をどうするかを一度話しておく。それだけで、選べる道がまったく変わります。切り出し方は親の家の終活にまとめています。

なぜ売れないのか|認知症になると不動産の契約ができない理由

理由はシンプルです。

不動産の売買は、所有者本人が「売ります」という意思を示して成立します。判断能力が失われた状態で結んだ契約は、後から無効とされるおそれがあります。

誰がそれを確かめるのか

実務では、次の場面で確かめられます。

  • 司法書士が、登記を申請する前に所有者ご本人の意思を確認します
  • 不動産会社も、媒介契約や売買契約の場でご本人と話します

ここで意思の確認が取れないと、取引は進みません。

ご家族が代わりにサインする、はできません

「同居している子だから」「委任状をもらっているから」という理由で、ご家族が代わりに契約することはできません。判断能力があるうちに作った委任状も、その後に判断能力が失われれば効力が問題になります。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

これは親御さんを守るための仕組みです。判断能力が落ちた方の財産が、周囲の都合で動かされないようにするためのものだと考えてください。不便に感じる場面もありますが、理由があります。

成年後見制度とは|不動産の売却にかかる時間と費用

判断能力が失われた後に使うのが、法定後見です。家庭裁判所に申し立てて、本人を支える人(成年後見人など)を選んでもらう仕組みです。

申立てにかかる費用と期間

裁判所の案内による費用の内訳です。

後見開始の申立てで必要になるもの(裁判所の案内による)

項目 内容
申立てができる人 本人・配偶者・四親等内の親族など
主な費用 申立ての手数料(収入印紙)、連絡用の郵便切手、登記手数料、医師の診断書の作成費用
鑑定が行われる場合 本人の判断能力について鑑定が行われることがあり、その費用がかかります
後見人への報酬 家庭裁判所が決めます。本人が亡くなるまで毎年かかります

金額は裁判所と事案で変わります。具体的な額は、申立先の家庭裁判所にお尋ねください。 期間についても、事案や裁判所によって変わりますので、ここで日数は書きません。

売却代金は、ご家族が自由に使えるお金にはなりません

売れたお金は、あくまでご本人の財産です。後見人の管理下に入り、ご本人のために使うことになります。「実家を売って、そのお金を家族で使う」という形にはなりません。

施設費用や介護費用など、ご本人のための支出であれば、そこから出せます。ここを誤解したまま進めないでください。

3つの類型

判断能力の程度によって分かれます。

法定後見の3つの類型

類型 対象となる状態
後見 判断能力が欠けているのが通常の状態
保佐 判断能力が著しく不十分
補助 判断能力が不十分

居住用不動産を売るには、家庭裁判所の許可が要る

ここが、売却の段取りに直接ひびきます。裁判所の案内によれば、本人の居住用不動産を処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要とされています(未成年後見の場合を除く)。

対象になるのは、売却のほか、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定、建物の取り壊しなどです。許可を得ずに行った処分は無効とされます。

「今は住んでいない家」も居住用不動産に含まれます

裁判所の案内では、現に住居として使用している場合に限らず、入院や施設入所で現在は住んでいないが将来住む可能性がある場合や、入所前に居住していた場合なども含むとされています。施設に入られた後の実家は、まさにこれに当たります。

後見人には、家族がなれるとは限りません

最高裁判所の統計(令和7年1月〜12月)では、配偶者・親・子・兄弟姉妹・その他親族が成年後見人等に選任されたのは全体の約16.4%でした。残りは、司法書士や弁護士などの専門職です。

申立てのときに家族を候補者として挙げることはできますが、誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所です。

法定後見で押さえておきたいこと

項目 内容
申立て先 本人の住所地の家庭裁判所
後見人を決める人 家庭裁判所
親族が選ばれる割合 約16.4%(令和7年・最高裁判所事務総局家庭局の統計)
居住用不動産の売却 家庭裁判所の許可が必要
いつまで続くか 原則として本人が亡くなるまで

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

「家を売るためだけに後見人をつける」とはいきません。一度始まると、原則として本人が亡くなるまで続きます。専門職が選ばれれば、その間の報酬も発生します。家の売却だけを目的に考えると、見込み違いになります。

家族信託とは|不動産を元気なうちに託しておく備え

もう一つの仕組みが家族信託(民事信託)です。

どういう仕組みか

親御さん(委託者)が、信頼できるご家族(受託者)に財産の管理を任せる契約です。たとえば実家を信託しておけば、将来親御さんの判断能力が落ちても、受託者であるお子さんが売却などの手続きを進められます。

元気なうちにしか結べません

これが最大のポイントです。家族信託は契約ですので、親御さんに契約を理解する判断能力があることが前提です。判断能力が失われた後では結べません。

「今から家族信託を」は、間に合わないことがあります

すでに判断能力に不安がある段階では、信託契約を結べない場合があります。公証役場や司法書士が本人の意思を確認しますので、ここで止まることがあります。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

家族信託は「使える人が限られる備え」です。親御さんがお元気で、ご家族の関係が良好で、任せられる人がいる。この3つがそろって初めて選べます。

成年後見と家族信託の違いを並べて比べる

2つの違いを整理します。

法定後見と家族信託の違い

比べる点 法定後見 家族信託
始められる時期 判断能力が失われた後 判断能力があるうちだけ
誰が管理するか 家庭裁判所が選んだ人(親族は約16.4%) 契約で決めたご家族
居住用不動産の売却 家庭裁判所の許可が必要 契約の範囲内で受託者が進められる
身上の保護(施設の契約など) 対応できる 財産の管理が中心。身上の保護は範囲外
いつ終わるか 原則として本人が亡くなるまで 契約で定めたとき
費用 申立ての費用+専門職が就いた場合の報酬 契約を作るときの費用(専門家の報酬・公証人の手数料など)

どちらが良いということではありません

家族信託は自由度が高い一方、身上の保護(施設の入所契約や医療の同意に関わる場面)には対応できません。法定後見は制約が多い一方、公的な仕組みとして本人を守ります。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

「後見は面倒だから信託で」という考え方は危険です。親御さんの状態と、ご家族が何に困っているかで選ぶものが変わります。メリットだけを聞いて決めず、できないことを先に確かめてください。

親の認知症に備える不動産の対策|元気・不安がある・診断を受けた

ご自身がどの段階にいるかで、やることが変わります。

① 親御さんがお元気な段階

いちばん選択肢が多い時期です。

  • 家をどうしたいか、ご本人の希望を聞いておく
  • 家族信託、任意後見(元気なうちに後見人を決めておく契約)を検討する
  • 権利証・固定資産税の納税通知書・保険証券の場所を共有しておく

② 判断能力に不安が出てきた段階

急いだほうがよい時期です。

  • 司法書士・弁護士に早めに相談する
  • 家族信託や任意後見が間に合うかを確かめる
  • 間に合わない場合に備えて、法定後見の流れも聞いておく

③ すでに診断を受けている段階

  • 家庭裁判所への申立てを検討する
  • 居住用不動産の売却には許可が要ることを前提に、予定を組む(買主が決まってから許可を申し立てるのが通常の順番で、許可が下りることを条件に売買契約を結びます)
  • 売却を急ぐ事情(施設費用など)があるなら、申立ての段階でその事情を伝える

「売れるはず」で施設の契約を進めないでください

実家を売ったお金で施設費用をまかなう予定を立てていたのに、手続きに時間がかかって間に合わない。これは実際に起こり得ます。売却の見込みが立つ前に、支払いの予定を組まないようにしてください。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

段階によって相談先も変わります。①②なら司法書士や、信託に詳しい専門家。③なら家庭裁判所への申立てですので、弁護士・司法書士です。当社では、司法書士をご紹介しています。

FPの視点|親の医療・介護費用の準備は、家とは別に見積もる

不動産会社としてではなく、FPの立場からお伝えしたいことです。

売却を急ぐ事情として、施設費用や介護費用の不足があります。ここを、家の売却とは切り離して見積もっておくと、判断が落ち着きます。

分けて考える3つ

  1. 毎月いくら足りないのか — 年金と、施設・介護の費用の差額
  2. その不足を、いつまで埋める必要があるのか — 期間の見込み
  3. 家以外に使える資産があるか — 預貯金、保険、ご家族からの支援

家を売らずに済む場合もあります

たとえば、親御さんの預貯金と年金で数年はまかなえるなら、急いで売る必要はありません。その間に、ご家族で落ち着いて方針を決められます。

売らない選択肢も並べてください

私は、すぐに売る・買うをお勧めしません。「今は動かない」も立派な選択肢です。空き家として持ち続ける場合の費用は親の家が空き家になったらにまとめていますので、持ち続けた場合と売った場合を、金額で並べてみてください。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

「毎月いくら足りないのか」をはっきりさせると、判断が落ち着きます。そこがはっきりすると、家を売るべきか、売るとしていつまでに必要かが見えてきます。金額が分からないまま進めると、売る時期も価格も決めにくくなります。

向かない人・よくある失敗|認知症の親の家の売却で注意点を確かめる

この記事の範囲を超える方

こういう場合は、先に専門家へ

  • すでに相続が発生している → この記事は親御さんがご存命の場合の話です。相続後の手続きは実家を相続したら最初にやることへ
  • ご家族の間で意見が割れている → 後見の申立てや信託の前に、まず話し合いが必要です
  • すでに誰かが財産を動かしている疑いがある → 弁護士へご相談ください

よくある失敗

  1. 「家族だから何とかなる」と思っていた → 判断能力が失われた後は、ご家族でも代われません
  2. 家族信託を検討し始めたのが遅かった → 元気なうちにしか結べません
  3. 後見人に家族がなれると思っていた → 令和7年の統計では親族の選任は約16.4%です
  4. 売却代金をあてにして支払い予定を組んだ → 家庭裁判所の許可に時間がかかります

急がなくて大丈夫です

焦って決める必要はありません。納得いくまで、何度でもお付き合いします。親御さんの家のことは、ご家族にとって重い話です。一度で決めきらなくて構いません。

次に確かめること

まず、親御さんの今の状態を、ご家族の間で共通の認識にしてください。「物忘れが増えた」のか「契約の意味が分からなくなっている」のかでは、できることが違います。かかりつけの医師に相談するのが確かです。

そのうえで、登記事項証明書(登記簿の写し)を取って、実家の名義が今どうなっているかを確かめてください。親御さん単独か、すでに共有になっているかで、話が変わります。

💡 FP細井のワンポイント本音アドバイス

登記事項証明書は、ご本人でなくても取れます。法務局の窓口でもオンラインでも請求できます。「まだ何も決まっていない」という段階でも、ここだけは先に確かめておくと話が早く進みます。

よくある質問

Q. 家族なら、代わりに売ることはできませんか?

A. できません。不動産の売買契約には所有者ご本人の意思が必要で、判断能力が失われた状態で結んだ契約は無効とされるおそれがあります。登記を担当する司法書士が本人の意思を確認しますので、そこで止まります。同居しているご家族でも、委任状を持っていても、代わりに契約することはできません。法定後見の申立てをするか、元気なうちに家族信託や任意後見で備えておく必要があります。

Q. 後見人には、家族がなれますか?

A. 申立てのときに候補者として家族を挙げることはできますが、誰を選ぶかを決めるのは家庭裁判所です。最高裁判所事務総局家庭局の統計(令和7年1月〜12月)では、配偶者・親・子・兄弟姉妹・その他親族が成年後見人等に選任されたのは全体の約16.4%でした。残りは司法書士や弁護士などの専門職です。家族が選ばれることを前提に、予定を立てないでください。

Q. 手続きには、どのくらい時間がかかりますか?

A. 家庭裁判所への申立てから後見開始の審判までの期間は、事案や裁判所によって変わります。さらに、居住用不動産を売る場合は、後見が始まった後にあらためて家庭裁判所の許可を得る必要があります。裁判所の案内では、審理に期間を要するため取引日は余裕を持って設定するよう示されています。正確な見込みは、管轄の家庭裁判所にお尋ねください。

Q. 費用はどのくらいかかりますか?

A. 法定後見では、申立てに関する費用のほか、専門職が後見人に就いた場合は継続的な報酬が発生します。家族信託では、契約書を作るときの専門家の報酬や公証人の手数料がかかります。いずれも事案の内容で金額が変わるため、この記事では具体的な額は書きません。家庭裁判所の案内や、相談する専門家にお尋ねください。なお、居住用不動産処分の許可の申立てについては、家庭裁判所ごとに必要な費用が案内されています。

Q. もう診断を受けている場合、できることはありますか?

A. 家族信託や任意後見は、判断能力があることが前提ですので、難しい場合が多くなります。残る道は法定後見です。ただし、診断を受けていても契約の意味を理解して意思を示せる状態であれば、判断が変わることもあります。自己判断せず、司法書士・弁護士にご相談ください。当社では、司法書士をご紹介しています。

まとめ|親が元気なうちに、家のことを一度話しておく

  1. 判断能力が失われた後は、ご家族の判断だけで親の家を売ることはできない。契約には本人の意思が要る
  2. 判断能力が失われた後に使えるのは法定後見。居住用不動産の売却には家庭裁判所の許可が必要で、施設入所中の実家も居住用不動産に含まれる
  3. 後見人を決めるのは家庭裁判所。親族が選任されるのは約16.4%(令和7年・最高裁判所の統計)
  4. 家族信託は自由度が高いが、親が元気なうちにしか結べない。身上の保護には対応できない
  5. 施設費用などの不足額を、家の売却とは切り離して先に見積もる。売らずに済む場合もある
  6. まず親の今の状態をご家族で共通の認識にし、登記事項証明書で名義を確かめる

※この記事の制度・数値は、下記の出典を 2026年10月9日 に確認したものです。制度は改正されることがありますので、実際の手続きの前に最新の公表をご確認ください。

親の家のこと、どの段階でもご相談ください

「まだ元気だけれど、そろそろ考えたい」でも、「もう診断を受けてしまった」でも構いません。今どの段階にいて、何ができて何ができないのかを一緒に整理します。手続きそのものは司法書士・弁護士の領域ですので、当社が代理することはできません。司法書士をご紹介します。焦って決める必要はありません。納得いくまで、何度でもお付き合いします。匿名でのご相談も承ります。

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